「世界がオバマ氏を助ける必要」 ノーベル賞委員長会見(1/2ページ)

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 【ストラスブール(仏東部)=土佐茂生】ノーベル平和賞を選考するノルウェーノーベル賞委員会のヤーグラン委員長が30日、当地の欧州評議会朝日新聞のインタビューに応じた。今年のオバマ米大統領への授賞について「2、3年後では手遅れになる。オバマ氏一人では何もできない。世界が彼を助ける必要があると考えた」などと授賞の経緯を語った。オバマ氏の実績への評価だけではなく、同氏が目指す世界の実現を後押しする狙いがあったことを明らかにした。
 平和賞候補の推薦は毎年2月に締め切られるが、今年2月時点でオバマ氏は大統領に就任したばかりだった。ヤーグラン氏は「大統領選挙戦のころから、彼の言葉や考えに注目していた」と話し、最初の選考委員会での候補者絞り込みで、まだ実績のないもののオバマ氏を残したと説明した。
 通常は選考会議を5、6回開き、9月には受賞者を決めるが、今回は7回開いたという。特に10月に入って2回会議を開くという異例の措置をとった。ヤーグラン氏は「9月末の、オバマ氏主宰の国連安保理での核問題に関する首脳会合は歴史的だった」とし、授賞へ「決定打」の一つになったことを示唆した。
 委員5人のうち3人がオバマ氏への授賞に反対だったとの報道があったことについては「最後は全会一致で決定した」と述べた。全委員が、米国が混迷するアフガニスタン情勢に深くかかわっていることに懸念を持っていたが、「アフガンは全世界の問題で、オバマ氏に押しつけるべきではない」との意見が出たという。
 12月の同賞授賞式が、国連気候変動枠組み条約第15回締約国会議(COP15)や、米ロの核軍縮条約交渉がヤマ場を迎える時期と重なることについて「もちろん意識していた」と語り、オバマ氏の政策に弾みをつける効果も考慮したことを明かした。
 オバマ氏への授賞には「まだ実績がなく言葉だけだ」との批判も出た。ヤーグラン氏は「言葉を侮ってはいけない。言葉は時に人に希望を与え、その希望が物事を良い方向に変える」と反論した。
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 ノーベル賞委員会(ノルウェー)のヤーグラン委員長との主なやりとりは次の通り。
 ――今年のノーベル平和賞には世界が驚きました。
 米国大統領を選べば論争になると分かっていた。しかし、オバマ氏は世界の問題の解決に新しい道筋を示した。それを支持したかった。
 ――「早過ぎる」という批判がありました。
 授賞を2、3年後に延ばせば手遅れになる。オバマ氏一人ですべての事ができるわけではない。世界のすべての人が助けなければならない。
 ノーベルの遺志では、その1年間にもっとも平和に貢献した人に賞が贈られる。それはオバマ氏だ。「オバマ氏は言葉だけだ」と言う人もいるが、言葉を過小評価してはいけない。言葉は時に危険だが、時に人に希望を与え、その希望が物事を良い方向に変える。
 ――候補者の推薦締め切りはオバマ氏の大統領就任直後。「当初、リストにオバマ氏はなく、委員長が同氏を入れた」と報じられました。
 まったくの間違いだ。推薦者を明かすことは禁じられているが、オバマ氏は推薦リストに入っていた。我々はオバマ氏の大統領選挙戦の時から、彼の言葉や考えに注目していた。
 ――委員のうち3人がオバマ氏に反対した、との報道もあります。
 真実ではない。いろんな議論があり、最後は全会一致で決めた。長いノーベル平和賞の歴史のなかで、最も難しい決定ではなかった。
 ――アフガニスタン問題は今や「オバマの戦争」と言われています。委員会ではどんな議論がありましたか。
 アフガンについては、全委員が懸念した。ある人は「アフガンは米国だけの問題だ」との印象を語った。しかし、アフガンは全世界の問題だ。「アフガン問題をオバマ氏に押しつけるべきではない」との意見もあった。
 ――ほかに懸念材料は。
 現職の米大統領に与えることも懸念した。しかし、論争にもならない人ばかりに授与すれば賞の価値は減じる。過去、最も賛否が分かれた授賞が最も成功している。ソ連ゴルバチョフ大統領への時は「委員会は狂った」と非難されたが、我々は正しかった。
 ――平和賞の授賞式がある12月10日は、地球温暖化の国際交渉や米ロ核軍縮交渉が佳境の時期です。
 もちろん、それは意識していた。二つの交渉が頓挫することは大問題だ。オバマ氏は二つの問題に対して具体的な提言を行っており、それを我々は支持したかった。